岡﨑乾二郎 而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here

東京都現代美術館で開催される《岡﨑乾二郎 而今而後 ジコンジゴ Time Unfolding Here》は、日本の造形芸術を牽引し続ける岡﨑乾二郎（1955年生まれ）の、活動の集大成と呼ぶにふさわしい大規模な個展です。絵画や彫刻はもちろん、建築、環境文化圏計画、ロボット開発、さらには教育や批評まで、その表現領域は極めて多岐にわたります。

本展タイトル「而今而後（じこんじご）」は『論語』の一節に由来し、「今ここにあることから、これから先、ずっと先も」という時間の広がりを示しています。これは、岡﨑が新たに重視し始めた“認識”の転回、つまり私たちの知覚そのものを揺り動かし、世界の捉え方を変容させる造形の力と深く結びついています。

展覧会は、2021年以降の新作約100点を中心に構成され、彼の活動のなかでも特に転換点となる時期の作品群を一挙公開。たとえば、絵画作品《Spread legs. Never to perish again…》（2024）は、詩的で黙示録的な言語と鮮やかな色彩が織りなす大画面で、鑑賞者に強い視覚的・言語的刺激を与えます。さらに、人工大理石を用いた立体作品や、自然と人工、時間と空間を行き来するようなタイトルを持つ作品群が並びます。

また、本展では過去の代表作《あかさかみつけ》（1981）や《まだ早いが遅くなる》（1986）なども展示され、作家の創作の軌跡とその一貫した思考が浮かび上がります。さらに「なかつくに公園」などランドスケープ設計にかかわるプロジェクトや、可変構造ロボット《T.T.T.Bot》の展示などもあり、岡﨑の仕事が単なる「アート」の枠を超えて、社会や技術、自然との複合的関係のなかで展開されてきたことを実感できます。

岡﨑の作品に通底するのは、「認識の可塑性」という思想。すなわち、世界は崩壊しているのではなく、それを捉える私たちの認識が揺らいでいるに過ぎない。だからこそ、造形行為によって新たな世界像を創造できるのだと彼は語ります。その思想は、時代の変化と個人的経験を踏まえ、再び力強く展開されていきます。

批評家としても知られ、著書や展覧会企画を通じてアートの可能性を追究し続けてきた岡﨑乾二郎。彼の40年以上にわたる思考と実践の蓄積を、時間をかけて体感することができる本展は、まさに「何度でも世界は再生する」というメッセージを具現化した展示空間となっています。